仏教手習い草紙Vol,104
甘露(かんろ)
お釈迦さまが生まれたとき、竜王が産湯として甘露の雨を降らしたという伝説があります。この甘露は字のとおり甘い露という意味ですが、他に「悟り」という意味で、甘露門、甘露の法、甘露王如来という使い方があります。これには、サンスクリット語から中国語への翻訳が関係しています。
仏教の経典が、インドから中国に伝わると、まず中国語へと翻訳します。翻訳には二つの方法があり、ひとつは、発音をそのまま漢字にあてはめる音写訳と呼ばれる方法で、卒塔婆や阿弥陀、袈裟などがそうです。もうひとつは、そのことばがどういう意味をもっているのかを調べ、それと同じ意味あるいは似た意味をもつ中国語に置きかえる意訳という方法です。仏教経典にでてくる「甘露」は、サンスクリット語の「アムリタ」の意訳で、ちなみに音写訳は「阿密哩多」となります。
「アムリタ」とは、インド神話にでてくる霊水をいいます。甘く香気があり、飲むとさまざまの苦悩を消し、寿命を延ばし、死者さえも復活させる力があるとされています。忉利天(とうりてん)という場所にあり、天人たちは常にこれを食し、いわば不老不死をもたらす霊薬のようなものだそうです。このアムリタの効用が、仏教の「悟り」に至る表現のイメージと重なり、アムリタが使われるようになったと考えられています。
一方、中国古来の伝説で、天地の気が調和すると天が甘い露を降らすといわれ、王者が高徳で善政を行い、天下泰平になったときに甘露が降るとされています。アムリタの意訳として選ばれたのがこの甘露でした。よって甘露は、中国伝説とインド神話の両方の意味をもつ仏教語として日本に入ってきたのです。
日本では、甘露煮、甘露水、甘露酒、カンロ飴(商品名)など、甘く味付けしたもの、美味であることの代名詞として使われることが多いようです。確かに甘くておいしいものを食べると、疲れが取れるし苦悩もなくなるような気がします。しかし今の日本にとって願うのは、甘露の降る時代が来ることなのですが・・・。